車椅子業界は数十年もの間、技術革新から取り残されてきた。その状況を一変させようとしているのが、自動運転車椅子の開発に取り組むAssistive Technology Development Inc.(ATDev)だ。カリフォルニア州オレンジに拠点を置く同社は、ロボティクス技術を活用して車椅子ユーザーの自立と生活の質向上を実現する野心的なプロジェクトを進めている。
ロボットアームを搭載した次世代車椅子
ATDevが開発する「Robotic Assistive Mobility and Manipulation Platform」(RAMMP)は、最新型の電動車椅子にロボットアームを統合したシステムだ。ユーザーが自力で行えない食事や飲水のサポート、ドアの開閉、照明の操作といった日常生活の動作を、搭載されたロボットアームが担う。さらにテレオペレーション機能により、ベッドに横たわった状態でも冷蔵庫から飲料を取り出すなどの作業が可能になるとみられる。
従来の車椅子業界は座面などの複雑な人体適応技術に集中してきたが、それ以外の部分は時代遅れの電力システムや制御ソフトウェアに依存していた。ATDevはこうした基盤から大幅に再構築し、安定した機械的基盤に最新の電子機器とソフトウェアアーキテクチャを組み込む方針だ。
安全性と共有自律制御の課題
ロボティクスを医療機器に組み込む際、安全は最優先事項となる。特に完全麻痺のユーザーが対象となる場合、ロボットアームが人間の顔に接近する作業では、極めて高い信頼性が必要とされる。自動運転車のような完全自律型ロボットと異なり、車椅子は搭乗者との共有自律制御(shared autonomy)を基本としている。ユーザーが間違った決定を検知して修正入力を加えられる仕組みにより、安全性と実用性のバランスを取っている。
RAMMPはARPA-H(米国保健先端研究庁)の助成を受け、ピッツバーグ大学が主導するコンソーシアムプロジェクトである。ATDevはこの連携の中で、自動運転車椅子の実現に特化した業界パートナーとして位置付けられている。ロボット技術の進化速度が加速する一方で、ユーザーが意思決定を保持できるシステム設計が、この分野の実用化を左右する重要な要素になりそうだ。
